乳がんの治療、どう決める?“不安”から“納得”に進む情報の力
~東北大学病院 宮下穣教授に聞く、乳がん「多遺伝子検査」~

2026.04.10

〇東北大学病院 教授 宮下 穣(みやした みのる)先生
患者さん一人ひとりに合った「個別化医療」を大切にし、乳がんの基礎研究から実際の治療まで幅広く手がける。特に、遺伝性の乳がんや、がんの遺伝子情報に基づいた「ゲノム医療」にも力を入れており、全国でも有数の実績を持つ、乳がん治療のエキスパート。

〇医療ジャーナリスト 増田 美加(ますだ みか)さん
女性の医療、健康情報を専門に、エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。乳がん経験者でもあり、がんの啓発活動を行う。


まずは知っておきたい、日本女性の乳がんの状況

増田美加さん(以下、増田):乳がんにかかる日本女性は、いまや9人に1人と言われています。最新の乳がんの状況について教えてください。

宮下穣先生(以下、宮下先生):乳がんは、日本の女性がかかるがんの第1位で、毎年約10万人の方に新たな乳がんが見つかっています※。けれども亡くなる方は、女性のがんの4位で、罹患数から考えても多くはありません。乳がんは、早期に見つければ、治りやすいがんでもあります。日本女性の乳がんは、40代後半から50代、60代に多く、家庭と仕事の両立で忙しく、親の介護なども重なり、大変な年代にかかるのが特徴です。だからこそ、乳がんは早期発見が大切ながんです。早期発見で治療を行えれば、体への負担も少なくて済みます。ぜひ定期的な乳がん検診を受けていただきたいです。

乳がん「多遺伝子検査」の役割とは?

増田: いま医療の進歩で治療法が増え、患者が治療を選択できる時代になっていると聞きます。治療を選ぶときに迷いそうですが、何か方法はありますか?

宮下先生: 乳がん治療の選択に役立つ、乳がん「多遺伝子検査」という検査があります。この検査は乳がんの手術後に「どの程度、再発しやすいか?」「抗がん剤を併用すると効果がどのくらいあるか?」がわかるため、治療方針を決める手助けになります。

増田: 私たちがん患者にとって再発が最も怖いので、再発するリスクがわかると、治療を選ぶときに役立ちます。どんなふうに検査結果が出るのですか?

宮下先生: 結果は、具体的な数値としてでてきます。そこで数値の高い人は再発の可能性が高いと予測され、また抗がん剤による再発予防効果が証明されています。数値が小さいほど再発するリスクは低く、また抗がん剤を投与する必要性は下がっていきます。

抗がん剤治療を行う患者さんのメリットが数字でわかる

増田: 以前は、抗がん剤の効果があるかどうか曖昧なまま、副作用のある抗がん剤を行っていました。抗がん剤の副作用には、脱毛や気持ち悪さ、免疫力の低下などがあるため、生活の質が低下します。不必要な治療を避け、自分に最適な治療を選択したいというのは、患者の願いです。

宮下先生: 乳がん「多遺伝子検査」は、抗がん剤治療を行うメリットがしっかり数値でわかることで、納得して治療を選ぶ手助けにもなると思います。たとえば、私たち医師が「この方は、抗がん剤をしなくてもいいのでは」と思う人にこの検査を行ったら、再発するリスクが高いという数値が出ることも、なかにはあります。必要な人に抗がん剤治療を行えるということは、命を救うことにもつながり、この検査結果がとても重要なことがわかります。

増田: 自分にとっての抗がん剤の効果やメリットをしっかり理解できると、前向きに治療にのぞめますね。数値で結果がクリアに出てくるのも患者にわかりやすいです。どんな人がどのタイミングで、この検査を受けるといいのですか?

宮下先生: この乳がん「多遺伝子検査」を行うタイミングは、乳がんの手術後です。乳がんは4タイプに分類され、そのうち、ホルモン療法に抗がん剤を加えるか加えないかを迷うタイプがあります。このタイプは、すべての乳がん患者さんの中で最も多く、約7割を占めます。このタイプで、早期浸潤性乳がん、さらにリンパ節転移がないか、あってもリンパ節転移が1~3個の人がこの検査の対象になります。術後の乳がんの組織を使うので、検査のために新たに血液や組織を取る必要はありません。保険適用になっている検査もあり、高額療養費制度も使えますので、以前より費用の面でも受けやすくなりました。

乳がん患者さんがこの検査を受けようと思った最も大きな理由は、「客観的な数値をもとに、自分に合った今後の治療を考えたかったから」が48.8%。次に「抗がん剤を受けるかどうか迷っていたから」が34.1%でした。(EXACT SCIENCES調べ)

この検査を受けた乳がん患者さんのうち、受けて「とてもよかった」と答えた人は76.3%。「よかったと思わない」「全くよかったと思わない」と回答した患者さんはいませんでした。(EXACT SCIENCES調べ)

数字だけでは割り切れない、患者さんの思いも大切に

増田: 乳がん「多遺伝子検査」を受けるにあたって、私たち患者が注意したほうがいいことはありますか?

宮下先生: 数値で抗がん剤を行うメリットがあると出ても、それだけで抗がん剤を行うか決められないこともあります。そのほかの条件もあるし、患者さんの価値観や生き方もあるでしょう。検査は、あくまでも自分に合った治療を選ぶための道具です。「何を大事にして治療するか」は患者さん一人ひとり異なります。患者さんと医師が一緒に考えて決めていくことが大切だと思っています。このことをSDM(シェアード・ディシジョン・メイキング=患者と医師の共同意思決定)と言いますが、新しい検査を上手に使って、患者さんと一緒により良い治療の選択ができたらと思っています。

※「がん情報サービス最新がん統計」(罹患2021年、死亡2024年)


【宮下穣先生からのメッセージ】
情報があなたの力になる。納得して安心できる治療の選択に繋げるために

乳がん治療の現場では、一人ひとりに合った個別化治療が可能になって、治療成績も向上しています。その一方で、治療の選択肢が多く、複雑になったことで、患者さんが情報を把握することが難しい状況になっています。しかし、私たち医師が協力しますので、諦めずに知識を得て、情報を活用してください。
そのために、患者さんに治療選択の手助けになればと、この乳がん「多遺伝子検査」を提案しています。その結果、「受けてよかった」という方がほとんどでした。その理由は、「納得して治療に進めたから」というものでした。
再発の可能性や抗がん剤を行うことによる効果が、客観的な数値で出るので、わかりやすいということもあります。この検査結果をもとに、私たち医師と十分に話し合いながら治療法を考えていきましょう。それが患者力となり、納得と安心の治療選択に繋がります。


〈グラフについて〉調査名称:「乳がん治療と多遺伝子検査に関する患者意識調査」, 調査対象: 2023年9月以降に乳がんと診断された患者, 実施時期: 2025年7月9日~7月12日, 調査手法: Webアンケート形式(有効回答数:360件(男性7名含む)), 監修: 吉田 敦 先生(聖路加国際病院 乳腺外科部長), 調査依頼元: エグザクトサイエンス株式会社, 調査実施: 株式会社リサ・サーナ, 協力患者団体: ピアリング, あけぼの会, キャンサーネットジャパン, E-Bec

【お問い合わせ】
EXACT SCIENCES
https://www.exactsciences.com/ja-jp

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この扉の向こうに、新しい山形を発見。